リレー随想 - 第 6 回 -
ヘルスリサーチを想う
貧すれば鈍する
学習院大学
南部 鶴彦
高齢化の進展がもたらす医療費・介護費の増大については、負担の増大にどう対処するかという点での危機感ばかりが強調されている。しかしこれは最近10数年間の経済停滞がそのまま大きく変化しないという悲観論に依存しているところが大きい。経済学の常識からいって戦後60年位しかたっていない国民経済が失速したまま低成長を続けるなどということはありえない。また一方では人口減少のもたらす危機感も悲観論を助長しているように見える。
しかし問題は労働力化率であって女子の労働参加率の低い日本では今後(ときには男子よりも)良質の女子の労働参加が望めるということを見逃している。さらに日本の消費税率は先進国と比べ5%でしかない。ということは国民の負担能力にはまだ十分な余地があるということを意味している。もし医療や介護へのさらなる支出が必要だと日本人が考えるなら、それは経済的に支出可能だという条件のあることを忘れてはならない。医療・介護亡国論はわずか10数年の停滞に脅えた「貧すれば鈍する」という類の妄想である。
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